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東京高等裁判所 昭和28年(ラ)249号 決定

抗告代理人は、「原決定はこれを取り消す。東京地方裁判所が昭和二十八年四月七日なした強制競売開始決定はこれを認可する。」旨の決定を求め、抗告の理由として別紙抗告理由書に記載してあるとおり主張した。

よつて按ずるに記録編綴の本件家屋に関する登記簿謄本二通(記録二四丁ないし二六丁、六〇丁ないし六二丁)沢村努の上申書(記録六四丁)、建物所有権移転登記申請書(記録六八丁ないし七〇丁)、建物所有権移転仮登記の移転申請書(記録七一丁ないし七三丁)、藤田俶栄の証明書(記録七四丁)、登記済権利証(記録七五丁ないし七九丁)によれば、本件建物については債権者藤田俶栄のため、昭和二十七年七月七日東京法務局北出張所受附第九六五五号を以て、同日附金円貸借契約により債権額十万円、弁済期同年八月六日、利息期間中前払済と定めた順位第一審の抵当権設定登記並びに同年七月七日同出張所受附第九六五六号を以て、右抵当権の債務を期限に弁済しないときは、代物弁済として本件建物の所有権移転をなすべき請求権保全の仮登記がなされていること、昭和二十八年四月七日本件強制競売開始決定がなされ、同月十三日同出張所受附第五九九〇号を以てその旨の登記がなされていること、その後相手方は右藤田俶栄から前記抵当権附債権及び所有権移転請求権保全の仮登記上の権利を譲り受け、同年六月一日同出張所受附第九一五二号を以て右抵当権取得の附記登記を、更に、債務者沢村務において前記抵当債務の弁済を怠つたため、相手方において条件成就により本件建物の所有権を取得し、同じく第九一五四号を以て代物弁済による所有権取得の本登記を経由したものであることが明かである。

而して鑑定人平沼薫治の鑑定書(記録四一丁ないし四七丁)によれば、本件建物の評価額は昭和二十八年四月当時金三十三万七千五百円であることが認められるが、本件建物に前記抵当権が設定せられ、且つ、これが右抵当債権の代物弁済の目的として前記仮登記が経由されている所以のものは、債権者藤田俶栄において前記債権の弁済を確保するためのものというべきであるから、本件建物の価格が右債権額を相当上廻ることあるべきことは通常何人も不思議としないものというべく、又債務者たる沢村努においてもこれを知悉していたものと解せられる。従つて債務者沢村努において債権者藤田俶栄から前記金円を借り受けるにあたり、若し右債務を履行しないときはその所有の本件建物を代物弁済として債権者に移転することを任意約束することは、別段法律の禁止するところではないといわなければならない。若し、債権者藤田俶栄において債務者沢村努の窮迫、軽卒若しくは無経験を利用し、若しくは過当な利を得る目的で特に本件建物の価格が著しく高額であることを秘し、債務者沢村努をして代物弁済契約をなさしめたものであれば格別、かかる事実を徴すべき特段の資料のない本件においては、単に前記の如く昭和二十八年四月当時における本件建物の価格が金三十三万余円であるとの事実をもつてしては、前記代物弁済契約を公序良俗に反するものとして直ちに無効となし、債権者藤田俶栄において前記仮登記上の権利を有せず、従つて相手方において譲受により右仮登記上の権利を取得し得ないものとなすことはできない。

又本件のように強制競売開始決定前代物弁済による所有権取得に関する契約成立し、且つ、その旨の登記を経た場合においては、その本登記が右開始決定の後になされてもそれを以て新に不動産の処分をなした場合に当らないから、その競落許可決定の確定するまでは何時でもその登記権利者は有効に本登記を為し得べきものというべく、従つて相手方が本件建物に対する仮登記上の権利を取得登記し、条件成就により本登記をなすに際し、本件強制競売開始決定があり現に右手続の続行中であることも知つていたとしても、これを以て競売債権者に対抗し得ないものとし、或は公序良俗に反する無効なものと主張するのは当らない。

而して又抗告人の本件競売申立債権取得が昭和二十八年三月六日であつて、債権者藤田俶栄の前記金円貸借の後であることは記録編綴の消費貸借公正証書(記録四丁ないし九丁)の記載によつて明かであるから、他に特段の事実の認められない本件においては、債権者藤田俶栄及びその承継者たる相手方が前記仮登記上の権利を主張することは何等公序良俗違反でもなく、又民法第四百二十四条による廃罷訴権の目的となるものでもない。

然らば相手方は本件建物に対する所有権取得の本登記により前記仮登記の順位に遡つてその所有権の取得を以て第三者に対抗し得るに至つたものであり、その後になされた本件競売申立並びにその開始決定は第三者たる相手方の所有建物に対して為されたことになるから、本件強制競売はこれを続行すべからざるものと認めるを相当とする。

以上説示のとおりであるから、原決定は洵に相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)

(別紙)抗告理由書

抗告の理由

一、抗告人は東京地方裁判所に沢村努を債務者とし別紙目録<省略>記載の物件に対する強制競売を申立(同庁昭和二十八年(ヌ)第一三六号)同裁判所は同月十三日右競売申立の登記が為され、同年六月三十日に競売期日を指定され、本件物件の競売最底価を金参拾参万七千五百円也と鑑定によつて査定され、

二、昭和二十七年七月七日本件物件について藤田俶栄のために、債権額金拾万円也弁済期日昭和二十七年八月六日の抵当権設定登記、並に右債務を期限に弁済しないときは代物弁済として所有権を移転すべき請求権保全の仮登記がなされた。

三、昭和二十八年六月一日相手方は右藤田から右債権及それに伴う抵当権並右代物弁済として、所有権を移転すべき請求権の各の譲渡を受けて、その旨登記を経て同日前記仮登記に基く代物弁済による所有権取得の本登記をした。

四、相手方は昭和二十八年六月五日右所有権の本登記に基いて同庁に対して(同庁昭和二十八年(ヲ)第二〇六二号)強制競売開始決定を取消す申請を為し、同序は同年七月七日右競売開始決定を取消す決定をした。

五、本件物件は前述の如く競売最底価格は金参拾参万七千五百円也で実価は金五拾万円以上のものである。かかる高価な物件を金拾万円也の債権で代物弁済によつて所有権を取得する契約は公序良俗に反するもので民法第九十条により無効である。

(判例数多あり)。

従つて昭和二十七年七月七日の藤田俶栄と沢村努との代物弁済による所有権移転の契約は無効であり、同仮登記も抹消さるべきものである。

又相手方宮代が右藤田の同債権を譲受け之れに伴う代物弁済の請求権を譲受けそれによつて、代物弁済による所有権を取得した事も無効である。故にそれに基く所有権取得の本登記は抹消さるべきである。

相手方は本件物件が強制競売手続執行中であることを知りながら、かかる低額の債権の譲渡によつて登記したのであるから、第三者に対抗出来ないのみならず公序良俗に反する行為であつて無効である。

抗告人は本件物件の所有者たる沢村努の債権者として同人に代位して右無効を主張する。

六、本件物件は沢村努の有力な財産であつてあまねく同人の債権に対して其の財産を分配すべきものである。藤田俶栄並に其の承継者たる相手方宮代が金拾万円の債務の抵当権者として本件競売の節優先的に拾万円也の分配を受くることは正当なことであるが、其れ以上多大の価値を有する本件物件を只一人が独占することは仮りに沢村の合意に基くとしても、それ等の行為は債権者を害する行為であつて公序良俗に反するのみならず、民法第四二四条によつて取消さるべきものである。

抗告人は右理由によつて直ちに本件物件の前記代物弁済の仮登記並相手方の所有権移転登記の抹消の訴訟を提起するものである。

七、右の理由によつて主文の如き御決定を求めるため本抗告に及びます。

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